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長友


文・一志治夫) 

※『アエラスタイルマガジン 34号』より抜粋

フローマインド
受け入れる
もう一人の自分 タイムスリップ
ライフスキル
これだな
辻先生も長友取り上げてるしね

「ああいうときは、基本的に精神が焦っているんです。不安を抱いていますから。自分のいまとか、将来に。過去のこととかを後悔したり、未来を不安に思う気持ちに感情がゆさぶられて、結局、いまやるべきことをやれず、集中できなくなっているんです。そうなるとケガも繰り返すし、うまくいくことなんか、もうないですよね」 

 長友はさらにこう解説する。 

「やっぱり大切なのは精神。そこからすべてきていると思います。精神が病んでいるときは、どんなに身体のコンディションがよくても、どんなに最高の準備をしても、パフォーマンスは出せない。 
 でも、精神状態がよくて身体がのっているときって、いくら試合が重なり、日本と往復しながら試合をしてても、身体は動くんです。いかに精神が重要か、ということですよね」 


サッカー王国と呼ばれるイタリアでプレーするつらさは、想像を絶する。サポーターやメディアからの容赦ない批判。チーム内での熾烈なポジション争い。そんななかから、長友は、いかにして生き抜く術すべを見つけていったのか。 

「人間って、目に見えるものとか、聞こえてくるものにとらわれすぎて、感情をぶらされてしまうんです。僕自身、いままで、いろんなものにとらわれてきたんですよ。たとえば、自分を批判する人とかの声もそうですし、うまくいかない壁のようなものが来たときに、感情がぶれる。そういうことを経験してきて、いまは、それにとらわれないようになった。30年生きてきて、これが人生だと自分で受け入れられるようになったんです。 
 とらわれないようにしようと気づいたのは、イタリアに来て5年ぐらい経ってからです。いまは、つらい出来事でも1カ月もしたら、あるいは1年もしたら、笑い話にできる。それは、『先にいる自分をいま見る』という感覚ですかね。試合に出られないとかいろいろあっても、3年後、5年後の自分からいまを見たときには、まったくたいしたことないんですよ。そんなことでくよくよしたり、ネガティブに考える時間があるなら、もっと自分のやりたいこととか、ポジティブに考えてやったほうが先につながるよ、と未来の自分が言っているんです」 

 それでも、跳ね返すためにはそれ相当のエネルギーが必要なはず。 

「いや、跳ね返すというよりも、もう受け入れて、これが自分の道なんだ、これが自分の人生なんだと思えれば、別にどっちでもいいんです。怖いものがなくなるというか。ああ、ブーイングするならブーイングしろ、批判するなら批判してよ、と。これが確実に自分を成長させてくれるというのがわかるから受け入れられるんです」 


そして、長友はこう達観する。 

「ケガして引退するなら、もう、そのときなんです。そのときが自分の引退の時期なんです。そこでネガティブな状況にとらわれるのはもったいない」 

 長友の言葉から伝わってくるのは強いポジティブ感だ。生きていく力強さだ。それは、たとえて言うなら、苦しみや障害さえも好んで自身の糧とし、大きくなっていくような強靱さである。 

「なんかそういう壁みたいなものを自分が求めているから、来るんでしょうね。もちろん、好きじゃないですよ。だけど、自分で好きだ好きだと思い込むんです。自分のストーリーがあまりにもすべてがうまくいくのは、気持ちいいかもしれないけど面白くないじゃないですか。ケガをしたり、ミスをして批判されて、ブーイングされて、メディアでぐちゃぐちゃに叩たたかれたりして、そこから這い上がっていくストーリーのほうが僕は好きだし、それを見せるのも好きなんですよ。頑張っている子どもたちがそれを見たときに、どれだけ勇気をもらえるか、ということも意識しているんでしょうね。そっちのほうが格好いいと思っている自分がいるんです」